高野保光の住宅設計
間取りから始めない家づくりのかたち
著者:高野保光
装幀:大杉晋也
B5判、本文4色、2,800円(税抜)
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端正な面立ちでロックを奏でる
戸建住宅の設計を数多く手がけられていらっしゃる建築家・高野保光先生の作品集兼設計ノウハウ集。「本当に良い家とは何か」を一般的な尺度とは別の物差しを使って解説されています。
巻頭に、「豊かな住まいの5原則」として以下の5つを掲げられました。
・間取りから始めない
・動線は長くてもよい
・欠点を認めて生かす
・意味のない場所をつくろう
・ボリュームはひとまわりスリムに
高野先生との初仕事は、『最高の外構をデザインする方法』というムックの製作をご一緒したときでした。執筆者代表のような役廻りをお願いした関係で、事務所に定期的におじゃまするようになり、いろいろなお話をさせていただいたのが本書製作のきっかけです。
あるとき雑談をしていると、高野先生が「チェックシートを片手につくるような家は、結局良い家にならないよね」と嘆かれたのが妙に印象に残っていました。のちのち、その一言が本書を構成する大きな核になったような気がしています。
当たり前ですが、世の中に「良い家」という『正解』はありません。
しかし、ものの分かった人が作成したとされる「良い家をつくるためのチェック項目」を一つひとつクリアしていくと、あたかも『正解』の家に近づけるように錯覚している人がいるのも事実です。そして、その手のチェックシートを安易に量産して流布しているのが、ほかならぬ出版社の編集者たちというのもなんとも始末に負えない話です。
そんな問題意識が、私と高野先生の間で激しく一致しました(たぶん)。
そして、難産のうえひねり出されたのが「高野版・近代建築の5原則」ともいうべき冒頭の5つの言葉でした。
この5つは、それぞれが住宅設計の本質をついた素晴らしいステートメントですが、いまあらためて読み返すと、もれなくバリバリの「反体制」ですね。ハウスメーカーの営業担当者などは、これとは真逆の説明を一つひとつ行って、「だから、当社の家は良い家なんです」とやるでしょう。
高野先生が設計される住宅は、写真だけ見ると、どれも美しく品があり端正な面立ちをしたものばかりですが、その裏には、世間のつまらない「チェックシート的」常識に背を向け、みずからの感覚を信じ一心腐乱に設計に打ち込まれているロックな反骨精神が常に鳴り響いています。
普段はものすごく温厚で優しいジェントルマンですが、ハートはロックな建築家。僭越ながら、それが私の高野先生評です。
(c) fujiyama office